「JR只見線で行く 玉梨温泉(福島県)」
福島県の新潟県を結ぶJR只見線は、秘境ルートで知られる路線だ。春は新緑、秋は錦色に染まる山々。そこに、エメラルドグリーンのダム湖や、赤い鉄橋が華を添える。それ以外に、このJR只見線の沿線の魅力といえば、山ひだに点在している温泉だろう。交通が不便な山あいの里なだけに、人知れない秘湯があるのも特徴だ。
雪が静かに舞い散る冬の日、会津若松から新潟方面に60kmほど入ったところに、玉梨温泉という風情のある温泉が湧いていると聞き、訪れてみることにした。JR会津若松駅から、JR只見線の三両編成のディーゼルカーに乗り込んだ。


列車は、ガタンゴトンと軽やかに線路を軋みませながら、なだらかな会津盆地を割っていく。窓外には、うっすらと雪化粧をした田畑と、残雪の山並み。塔寺駅を過ぎた辺りから、勾配が上がりはじめ、雪深くなった。トンネルを抜けると、エメラルドグリーンの阿賀野川が眼下に流れているのが見えた。河岸には、大きな岩がゴロゴロと横たわっていて、日差しを受けて、まるで宝石のように輝いている。雪をかぶった竹やぶ、ヒノキの雑木林、そこに時折、山茶花の花が、鮮やかな彩を添えている。

金山町に入ると、小さな民家が、肩を寄せ合うように、山の斜面にしがみついていた。郷土駅付近から、窓外にはダム湖が広がりはじめた。鏡のような湖面に、山々と集落が映し出されている。あまりの美しさに息を呑んだ。

JR会津若松駅を出発して2時間ほど経ち、JR会津川口駅で列車を降りた。ちいさな村が雪のなかに埋もれていた。朝から吹雪いたそうで、随分冷え込んでいる。駅周辺を散策していると、ちょうど玉梨温泉方面に行くバスがやってきた。私以外には地元のおばあさんが2人乗り込み、ひ孫が来たとか、犬がどうしたとか話している。タイヤにチェーンを巻いたバスは、ザクザクと走行音を立てて雪坂道を上っていく。小栗山温泉の集落を過ぎると、民家らしきものはほとんどなくなり、四方は山々に囲まれた。阿賀野川の支流にあたる野尻川が白く速く流れているのが眼下に見える。バスは道をくねりながら峠を上がっていった。

玉梨温泉バス停で降りると、そこはまるで墨絵で描いたような谷あいの里だった。野尻川に架かる赤い橋を渡ると、玉梨・八町温泉の集落に入った。人っ子ひとりいない、ひっそりと静まりかえる町並みが、次第に、闇と調和していく。川の上流に向かってほどなく行くと、旅館玉梨の看板が見えた。河畔に立つ、閑静なたたづまいの宿だ。



扉を開けると、薄暗い奥から、親切そうな旅館の主人が、顔をのぞかせた。「よう来られましたな。ここの温泉は体が温
まるべ」。温泉は、別棟にあるとのこと。廊下を通って一番南側にあるのが石造りの内風呂。その奥に、
旅館玉梨自慢の、岩で組まれた露天風呂があった。
岩の間から、45.2℃の源泉が絶え間なく湧き出し、
広々とした湯船に、満ち溢れていた。温泉は、茶褐色の炭酸泉で
痛風や神経痛など、さまざまな効用があるといわれている。
ボタン雪が天空から静かに舞い落ちてきた。湯に落ちると、さっと溶け消えていった。それを見ながらあたたかい湯に浸かっているうちに、旅の疲れもいつしか、消え去っていた。

東京や大阪など大都市からすると、玉梨温泉のような辺境の地は、不便で退屈な土地に映るかもしれない。鉄道やバスは一日に数本しか運行していないし、これといった娯楽施設もない。でも、その「何もない」ところに、何ともいえない趣を感じた。列車が来るまで、待合室で隣り合わせた人と会話を楽しんだりするのも、この不便さがあってこそではないだろうか。近年、都会では、人々は心が枯渇ししているといわれる。「何か足りない」そこに、人々の絆を取り戻すヒントが
あるのかもしれない、とふと思った。


湯上がり、宿の外に出てみた。野尻川の瀬音が、軽やかに渓谷に響いている。暗闇のなかに、対岸の温泉宿だろうか、橙色の街灯の明かりが灯っていた。湯煙が幻想的に浮き立ち、粉雪をやさしく照らしていた。

<旅館玉梨 データ>
住所 福島県大沼郡金山町大字玉梨字新板2044-1
TEL0241-54-2212
JR会津川口駅から10分玉梨八町温泉5分
宿泊:1泊2食9600円〜
チェックイン 15:00チェックアウト 10:00
鉄筋・鉄骨 2階建て 開業:1974.05 新築:1974.
日帰り入浴大人500円 (10:00〜17:00)