(地図を開く)徳島県名西郡神山町

■1時間ほど待ってロータリーに入ってきた神山行きの徳島バスは定刻に徳島駅を出た。市街地の雑踏を過ぎると、道路は次第に山を巻きはじめる。車窓は、左手にみずみずしい四国山地の緑を、右手には鮎喰川の清らかな流れを優雅に映しだしていった。1時間ほどバスに揺られて神山温泉前で降りた。明るい風のそよぎの向こうに桜の花びらがひらひら舞い落ちている。その陽だまりの道を抜けていくと、民芸風の神山温泉の建物が現れた。
■館内に入ると高い天井にシャンデリアが掛かげられ、神山杉の床や壁に薄橙色の光を落としていた。広がりと温かみを感じさせる空間に思わず心が和む。荷物を部屋に置いてから温泉に浸かりにいった。格子戸をガラガラ開けると、素朴なタイル張りの浴槽が現れ、透明の熱い湯がなみなみと張られていた。湯はヌルヌル感のあるいわゆる美人の湯とされる良泉だった。特筆すべきことに、神山温泉の泉質は、ナトリウム塩化泉と炭酸水素泉の効果を併せ持つ珍しいもので、陰イオンが6割以上も含まれていることから高いリラックス効果を期待できる。保養に限らず湯治にも最適な温泉なのである。
■湯上り、しばらくぽかぽかしていた。くつろぎながら一階の和食レストラン「かわせみ」で、アマゴの唐揚げ定食を注文して美味しく味わっていると、椅子やテーブルのシルエットの向こうに、春色に染まる山が飛び込んできた。思わず外に出た。橋の架かる小川を渡り、茅葺屋根の小屋までいくと、視
界に菜の花畑が一面に広がった。息を呑んだ。山の斜面へ行くと、それとコントラストを成すように蓮華畑が紅色く波打ち、小さな谷風にその甘い香りがかすかに運ばせていた。眼下には渓流が流れ、川べりでは数人の子供が虫取りをしている。それを見下ろすように山道を上っていくと、道端には、スミレ、タンポポ、ユキヤナギなどが咲きこぼれていた。そんな風景にしばらく見とれているうちに、バスの時間をすっかり忘れていることに気づいた。陽は西に傾き始めている。春色の風景を後にするのを名残惜しく思いつつ、帰路を急いだ。
(電話)088−676−1117
・徳島自動車道藍住ICより車60分
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