四国(愛媛) 井上晴雄の「日本 再発見の旅」(温泉、離島、宿)

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昔ながらの演芸場がある温泉(愛媛県)(スポンサードリンク)

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第二回 「たかの子温泉」
   

 伊予鉄道松山市駅から横河原線の普通電車に揺られること20分ほどの久米駅で下車した。
ここは松山市の市街地から南東へ約4km行った地点。周辺には、国道11号線が走り、四方八方にアスファルトの建物が林立していた。温泉など、とてもありそうな雰囲気ではない。降りる駅を間違えたのか?歩きはじめて10分くらいして不安に思ったとき、国道の脇に「たかの子温泉」と書かれた看板が見えた。 
 
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 矢印に従って脇道に入ったところ、大きなベージュの建物があった。それが東道後温泉のひとつ、「たかの子温泉」の温泉施設だった。


「たかの子温泉」がある松山市鷹子町は、地理的に見ると松山平野の南東平坦部にあたる。この界隈が松山市のベッドタウンとして住宅地化されるのは、ボーリング調査が行われた昭和37年(1962年)からのこと。
温泉として本格的に営業をはじめたのも同時期のことである。ただ、東道後温泉自体の歴史は古く、その由来は1200年前までに遡る。それは当時、伊予の久米の里にお立ち寄りになった弘法大師が付近を散策されていたときのこと、当地の草陰から一条の湯煙が立ち上っていた。分け入って調べられたところ、強い硫黄の香りを放つ透明の温泉を発見。弘法大師はそれを「弁天池」と名づけられ、「この池にゆあみするならば諸人万病も快感疑なし。」と仰せられたのだといわれている。
 
 
時代が流れ、中世、この地域は河野氏の統治下に置かれ、平安時代は仙波氏による支配を受けた。近世に入ると加藤嘉明と藩主蒲生忠知の治世があり、その頃、「高野戸」という古くからの表記が「鷹ノ子」に改称されたといわれている。それは藩主蒲生忠知が当地で鷹狩りを行っていたことに由来しているのだとか。


江戸時代に入ると、鷹ノ子村(当時)は松平氏による松山藩領に組み入れられた。城下と近く、広大な土壌があったものの、農業は振っていなかった。むしろ、周囲に豊富な河川がないことから、 しばしば旱魃の際には凶作となり、むしろ農民たちの生活を窮乏させる産業だったのだとか。そのような中、庄屋乃万安泱が安政4年(1857年)松山藩の援助を受けて、溜池原大池の容積を2倍に拡張する工事を施工。村の水田面積に対する溜池灌漑面積の比率は96%になり、それ以降、住宅地化されるまでの昭和年代までは、豊かな田園風景が温泉の周りに広がっていたと考えられる。 
 

 一方で、鷹ノ子村の商業は自然と発展していく。松山城下を行き来するために金比羅道(現在の国道11号線)界隈に一里塚が置かれ、元禄年間(1688年〜1704年)は金比羅宮参詣や四国遍路がブームとなったこともあって、次第に宿場地が形成されるようになる。寺院では四国霊場88ヶ所第49番札所の浄土寺や真言宗豊山派の極楽寺などはこの頃から隆盛していた寺院といわれ、以来、付近にはたくさんの家屋が建ち並ぶようになった。 
 

明治22年(1889年)、伊予鉄道横河原線の久米駅が開業。昭和37年(1962年)にボーリング調査が行われ、明治時代後期から大正時代初期にかけて、「大師の湯」という名で「たかの子温泉」は営業をスタートした。現在の建物は平成7年に改修工事が施されたもので、大浴場は、男湯、女湯ともに260と広く、暗褐色の御影石で優雅な雰囲気にまとめられている。大浴場から外に出ると、露天風呂が目に飛び込んでくる。浴槽は風格ある自然石で組まれており、野趣を感じさせる抜群の環境。浴槽の奥には天井から勢いよく湯が落ちる打たせ湯もあって風情があってよい。露天風呂の横には薬草スチームサウナもある。それは、数種類の漢方薬が蒸気で室内に噴出される珍しい設備で、中に入ると、熱波に混じって甘い香りも伝わってきていい気分になった。 
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東道後温泉は、愛媛県においては道後温泉、奥道後温泉に次いで泉温が高く、湯量が多いのが特徴だ。源泉脈が浅く、不純物が少ないこともあって肌にやさしくなじみやすい。泉質は、フッ素イオンを大量に含むアルカリ性単純温泉で、神経痛、慢性消化器病、関節痛、疲労回復などに効き目がある。
特筆すべきことに、「たかの子温泉」には大衆演芸場があり、芝居、歌謡ショー、舞踏ショーなどが連日行われている。それは、伝統的に温泉の呼び物になっており、湯上りに食事を食べながら演芸を鑑賞できる環境は風情があって、小さい子供からお年寄りまで一緒になって楽しんでいる。 
 

また、「たかの子温泉」には、宿泊施設「たかの子温泉ホテル」が併設されている。新館と本館があり、それぞれ、地元ならではの新鮮な魚介類をふんだんに使った会席料理やまとまった雰囲気の客室が好評である。 
 

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当地を訪れるきっかけとなったのは、学生の頃まで愛媛に住んでいた友人が、「たかの子温泉」の魅力を思い出深く語っていたことにあった。「もうだいぶ前、子供の頃のはなしじゃけど、両親と一緒によくおもしろい松山の温泉にいったんよ。そこでね、お芝居や歌なんかのショーを見てから温泉に入って帰るんよ。よく一番前で見てたんよ。意味も全部わからんのに、その芝居見てよく泣いてたんよ。そのあとお風呂に入って知らん人と一緒にその日の芝居について話をするんよ。楽しかったなあ。今もあるやろか・・・。」 
 
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実際に訪れてみて、温泉の雰囲気も、30年前という話の通りだった。そして、それだけの年月を経ても友人の心に思い出深く刻まれている「たかの子温泉」の魅力が分かったような気がした。
良質の湯に入り、旬の味覚を味わい、演劇を鑑賞して、また湯に浸かって、宿で休んで・・・そこには「温泉」・「味覚」・「伝統」・「人情」が一体になった「たかの子温泉」ならではのユニークな楽しみ方があるのである。
それに、長年、地元の人々から愛されてきた素朴な雰囲気も重なって、一種の「風土的あたたかみ」をも感じさせるのである。数多くある温泉の中で、心癒される充実した設備、そして1200年前に発見されたという伝統に根ざした良質の湯は、人間本来の生命力を蘇らせてくれるのに十分であるといえる。 
 


東道後温泉
たかのこ温泉ホテル(0120−459-047)
本館1泊2食付・入浴・演芸鑑賞 大人ひとり7000円〜
新館1泊2食付・入浴・演芸鑑賞 大人ひとり9000円〜
 *外来入浴:可(入浴は5:00〜24:00)
入浴のみ450円
入浴+演芸鑑賞1100円(演芸鑑賞は11:00〜15:30)


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